2019/05/03 休みが長すぎて ― 令和の日本人像

Sakuranbo

 十連休の半分が過ぎて、ニュースを見ているとこの連休が長すぎて困るという話題が出てきている。
 開いている医療機関に患者が集中しているとか、銀行が休みで、釣り銭用の硬貨が足りなくなって困ったとか。
 さらに聞いていると、長い休みがあっても、やることがない、行くところがない、金がないので、長い休みは困るという声があった。アンケートを取ると、半数以上の人が十連休は嬉しくはないという結果もあったようだ。
 ヨーロッパ人なら二週間、三週間の連続休暇は当たり前。南アフリカでは夏休みは普通に一か月の休暇。休みが長すぎて困るなんて言う話を聞いたことはない。
 どうして日本人は長い休みを楽しめないのか。金がないからなのか?日本人が仕事好きだからなのか?そして、それが普通の日本人像なのか?それでいいのか?
 そのような日本人像は「全身全霊」をもって象徴としての務めを果たされた上皇上皇后両陛下の生き方にも顕れているかもしれない。陛下自身もお話されたようにそれは「重い務め」で、全身全霊を傾けなければできないものであったことは確かだろう。その想像もできない、象徴としての生き方を考え抜かれ、重い務めを果たされていた姿を見て励まされた人も多くいたし、そのように生きようとお手本にしてきた人もいたであろう。
 ただ、そのお姿はご本人にとって重かったのと同じように、国民にとっても重かったのも確かだろう。
 一生懸命に働く、全身全霊を傾けて務めるというのは素晴らしいことである。それが時に、心身を苛むほどになってしまうのは、日本人の一つの特徴であるように言われることがある。日本人が勤勉だからと時に表現されることがある。
 それは、勤勉であるというよりは、与えられた役割を演じ切ることに非常なる重きを置いていて、役割を果たせなかった時の社会からの制裁に対する恐れ、あるいはそれに伴う恥を過度に恐れているということではないだろうか。
 英語のperformという言葉は、演じるという意味に加えて、(難しいことを)務める、完全なものにするという意味を持つ。「務める」ことと「演じる」ことが同じ単語で表現しうる近い関係のものであることはヨーロッパの文化でも同じなのかもしれない。ただ、日本では、「演じる」だけではなく「演じ切る」ことを求められる、あるいは、そうすることを自分に厳しく課すところに多少の違いがあるのかもしれない。
 これは、日本国民の象徴という重い役割についてのみの話ではない。日本社会における男として、あるいは女としての役割、母として、あるいは父としての役割といったジェンダー、教師として、あるいは医師といった職業上の役割でも同じである。役割という言葉は、立場という言葉に置き換えてもいいかもしれない。さらに、その役割、立場という言葉に、「ふさわしさ」、「らしさ」という言葉を加えてもいいかもしれない。これらの言葉は非常なる重さをもって日本人の人生を支配してしまう。
 日本国民の象徴という言葉は、政治的な機能を指すのみで、決して生き方を具体的に指すものではなかった。どんな風に生きることが象徴という役割を果たすことになるのかというところから新たに考えなければならなかったところに厳しさがあり、平成の天皇陛下が御自ら「旅」と呼ばれたそのような生き方は国民の共感を得た。それは、究極の「自分探し」である。確かに平成という時代は「自分探し」の時代だったのだろう。
 だが令和というこれからの時代ではどうだろうか。上皇上皇后両陛下と同じ重さと厳しさを背負ったままで、お言葉で述べられた通り「国民に寄り添って」いただけるだろうか。
 仕事、役職、あるいは性別などの役割を背負う生き方は、社会の中では時には必要、いや便利ではある。ただ、それだけでは息苦しくて、辛くなりすぎてしまう。畏れ多いが象徴という生き方もあるいはそうなのかもしれない。
 役割や立場、「らしさ」や「ふさわしさ」といったイメージで覆われた自分と、そんなものを脱ぎ捨てた自己とが矛盾なく統合・共存できる生き方が令和という時代で模索することはできないものだろうか。
 志を高く持って務めを果たしながらも、軛から自らを放って自由を楽しめる日本人。そんな生き方を令和の日本人の象徴として見せてはいただけないだろうか。そのためには、国民の側でそのような環境を整えていく必要もあろう。
 それが、自ら自分を探しまわらなくてもいい時代への一歩になる気がしてならない。両陛下が国民に寄り添っていただけるように、国民の側が主体的に寄り沿っていくことが、お題目だけではない、「働き方改革」や「ダイバーシティ」・「インクルージョン」を実現し、長期の休みも心から楽しめる、新しい時代の日本人になっていく唯一の道のように思える。

Aosagi

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