2019/02/10 「箱を出る皃(かお)わすれめや雛二對」  蕪村

Hinamatsuri

久しぶりに家族全員が揃った。おいしい鰻を食べに行こうと、駅近くのうな鐵で昼食。この店の鰻は今まで行ったどの店とも違って、タレの上品さと、鰻の焼き具合、飯とのバランスも絶妙。そこにミルでひいた粒山椒をほんの少し。スキが無いうまさだ。
 さりげない壁の掛け物も季節のごちそう。今回は蕪村。

「箱を出る皃(かお)わすれめや雛二對」

ちょうどこの句が案内された席の壁にかかっていた。確かに我が家にも雛人形が二対ある。毎年、立春がすぎると、雛人形を出さなくちゃと思うのだが、今年はちょっと遅れていた。でも出さないとね。二対のお雛様。
 家族にとっても一年に一度、顔を見るお雛様だが、お雛様同士も年に一度、箱から出されたときに顔を合わせる。蕪村は、一人娘がいたと伝わるので、この家には、蕪村の妻の持ってきた雛人形と、娘のために誂えた雛人形があったのか。あるいは、その娘のための雛人形を箱から出して飾ろうとしている蕪村夫婦を自ら照れながらももう一対の雛人形に例えたのか。浅学で蕪村が何歳の時に読んだ句なのか分からないが、二対の雛に詩情が生まれる詩情が香ばしい鰻にさらに風味を加えてくれる。
 家に帰って来るなり物置から雛人形の箱を持ち出して、二対の雛の顔合わせ。
 小さい頃は雛人形を箱から出す時に、娘たちがぴょんぴょん飛び跳ねて、白い綿手袋をつけて人形を出したがったのに、そんな喜びを追いかけているのは今や父親だけかと思った途端に、年取って浮いてきた歯茎に残ったのか、昼の山椒がピリッときた。
 箱を開けてみれば、二対どころか七対の雛人形。五対は娘たちが幼稚園で作った紙の人形。箱を開けるとまず出てくる五対が我が家に春の訪れを告げてくれるのである。
 昨日は寒波の影響で二十三区でも初雪だったが今日は穏やかな晴れ。生け垣を乗り越えた枝先に紅梅が一輪咲いていた。
 明後日には再び海を越える娘と、受験生の娘と、一足早いひな祭り。ひな祭りの歌は歌わないけど昔話と恋話で酒を過ごしてしまったね。でももう一杯だけ注いでもらおうかな。

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