仕事で年に数回、長崎に行くことがある。つい先日も行ってきたのだが、ランタンフェスティバルの点灯式の日の午後の便で帰京したので春節を祝う祭りは見られなかった。長崎での滞在時間はほぼ正味二十四時間で、いつも観光する時間は全くないのだが、今回は、夕食の待合わせ前のほんの十五分ほどを使って、ホテルのすぐ裏にあったオランダ坂に行ってみた。
石畳の坂。多くの草履や雪駄に磨かれたのだろうか、濡れたようにしっとりとつやのある少し緑がかった四角の石が、几帳面に敷き詰められている。これが上五島石と呼ばれている石なのか。左手に活水女子大学の趣ある建物を見ながら写真を撮ろうとしていたら、カメラを首から提げた男性が、
「この先に、洋風住宅が並んでいる方に行くと、この坂よりも古いオランダ坂があるんだよ」
と教えてくれた。オランダ坂が二カ所?坂の踊り場にある案内板にも確かに二カ所、オランダ坂という表記がある。そちらは「下り松オランダ坂」とも言われるらしいのだが、残念、今日は、そっちまで行く時間がない。
洋館に住む西洋人を「オランダさん」と呼んでいたのだとか。そのオランダさんが通る坂がオランダ坂。坂の街、長崎だからオランダさんが通る坂が二つあってもおかしくはないと思ったのだが、よくよく調べてみるともう一つのオランダ坂、「丸山オランダ坂」というのが出てきた。
こちらはオランダ屋敷へ向かう遊女が通った坂なのだという。地図で見ると思案橋のもう少し先になる。丸山という遊郭からこの坂を下り、銅座川を下ったのだとか。人の往来のための坂道。三つのオランダ坂とは言っても、そこを通った人の思いはそれぞれであったことだろう。
確かロンドンだったと思うが、オペラ 蝶々夫人を見たことがある。そんな物語も生まれる坂の街、長崎。坂の上から見下ろすと、街並みの先に海が望める。そんな景色からも、また、先の見えない坂を上れば切れる息からも、余情の生まれる坂に思いを寄せて来た街。夜も石畳のようにしっとりと艶のある街だった。
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